入れ歯は食事のためだけ?歯を失うことと転倒・認知機能の意外な関係
「歯が1本抜けたけれど、特に困っていない」
「奥歯だから、しばらくそのままでも大丈夫だろう」
「入れ歯を作ったけれど、あまり使っていない」
このように、歯を失った状態をそのままにしている方は少なくありません。
しかし、歯を補うことには「食事をしやすくする」以外にも大切な意味があります。
今回は、意外と知られていない「歯を失うこと」と全身の健康との関係についてご紹介します。
江戸時代には、すでに「木の入れ歯」があった?
現在の入れ歯は、一般的に歯科医院で型取りを行い、樹脂などを使って製作します。
では、昔の入れ歯はどうだったのでしょうか?
日本では、室町時代末期にはすでに木製の入れ歯が存在していたとされています。
江戸時代になると「入れ歯師」と呼ばれる専門の職人も登場しました。
木を削り、口の中に合うように形を整えていく。
現在のような精密な歯科材料やデジタル技術がなかった時代に、一人ひとりの口に合わせて入れ歯を作っていたことを考えると、日本の職人技術には驚かされます。
徳川家康にも木製の入れ歯を使用していたという逸話が残っています。
入れ歯の歴史は、私たちが想像する以上に古いのです。
入れ歯は「食べるため」だけではありません
入れ歯の大きな役割は、もちろん「噛むこと」です。
歯を失うと、食べ物をしっかり噛みにくくなります。
しかし、それだけではありません。
歯の喪失や噛む機能の低下は、身体機能や認知機能などとの関係も研究されています。
例えば、日本の高齢者を対象とした研究では、歯の本数が少ないことと認知症との関連が報告されています。
久山町研究では、20本以上の歯が残っている人と比較して、残っている歯が10~19本、1~9本、0本の人では、認知症の発症リスクが高くなる傾向が示されました。
ただし、これは「歯が少ないと必ず認知症になる」という意味ではありません。
歯の状態と認知症には関連が認められているものの、さまざまな生活習慣や身体の状態なども関係します。
歯を失ったままだと「転倒」とも関係する?
もう一つ、興味深い研究があります。
65歳以上の日本人1,763人を対象に、歯の本数や義歯の使用と転倒との関係を調べた研究です。
その研究では、
「19本以下の歯があり、義歯を使用していない人」は、
20本以上の歯がある人と比較して、転倒リスクが2.50倍でした。
一方、19本以下の歯がある人でも義歯を使用している場合には、転倒リスクが統計的に有意に高いとは認められませんでした。
つまり、歯を失った場合には、そのまま放置するのではなく、義歯などによって口腔機能を補うことが重要である可能性があります。
もちろん、この研究だけから「入れ歯を入れれば転倒を防げる」と断定することはできません。
しかし、「歯を失った状態」と身体機能との間に関係があることを示す、興味深い研究結果です。
「歯が抜けたけど、痛くないから大丈夫」は要注意
歯を失った直後は、
「反対側で噛めるから大丈夫」
「前歯ではないから困らない」
と思うかもしれません。
しかし、歯が抜けたままになると、残った歯や噛み合わせに負担がかかる場合があります。
また、歯を失った本数や場所によっては、食べられるものが少しずつ変わってしまうこともあります。
厚生労働省も、歯を失う主な原因として「むし歯」と「歯周病」を挙げています。
歯を失わないことがもちろん大切ですが、失ってしまった場合には、その後どうするかも重要です。
歯を補う方法は「入れ歯」だけではありません
歯を失った場合の治療方法には、
・部分入れ歯
・総入れ歯
・ブリッジ
・インプラント
などがあります。
どの方法が適しているかは、失った歯の場所や本数、残っている歯の状態、噛み合わせ、全身状態、生活スタイルなどによって変わります。
「入れ歯が嫌だから何もしない」
と決める前に、まずは現在のお口の状態を確認してみることをおすすめします。
「歯が抜けたまま」の方へ
もし、
☑ 歯が抜けたままになっている
☑ 入れ歯を作ったけれど使っていない
☑ 入れ歯が痛い・外れやすい
☑ 最近、硬いものが噛みにくくなった
☑ 食事に時間がかかるようになった
☑ 噛み合わせが変わってきた
ということがあれば、一度歯科医院で相談してみてください。
「今すぐ入れ歯を作りましょう」ということではありません。
まずは、残っている歯の状態、噛み合わせ、口腔機能などを確認し、ご自身に合った治療方法を考えることが大切です。
昔の日本では、木を削ってまで「噛める口」を作っていました。
そして現代では、さまざまな材料や技術によって、より精密にお口の機能を補えるようになっています。
歯を失ったときに大切なのは、
「食べられるかどうか」だけではありません。
これからも長く、自分の口で食べ、話し、生活していくために。
歯を失ったままにせず、一度お口の状態を確認してみませんか?
福岡歯科では、患者様のお口の状態や生活に合わせて、治療方法をご相談しています。
お気軽にご相談ください。
参考資料
・日本歯科医師会「お口のなんでも相談 歯を失ってしまったら?」
・厚生労働省 e-ヘルスネット「歯の喪失の原因」
・Yamamoto T, et al. Dental status and incident falls among older Japanese: a prospective cohort study. BMJ Open.
・Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study.





